イラスト:©益田ミリ
第72回 息子は自慢の対象、娘は見栄の道具?
「母への怒りの旅」を始めたリョウコさんは、次から次へと「母に言われて傷ついた言葉」 を思い出した。 「中学のときのバレエの発表会。とても大きな役がついたんです。ほかはみんな高校生や セミプロの人ばかり。みんなそれだけでも“すごいね”って言ってくれたのに、母だけが 違いました。発表会で私の些細なミスを見つけて、帰りに“ママ、恥ずかしかったわ”っ て……。そんなの誰も気づいてないのに……」 「妹には明らかに態度が違うんですよ。妹は強気な性格で、母のほうがむしろ恐れていた 感じ。高校のときにやめるやめない、って大騒動になったことがあって、それでもなんと か卒業して専門学校に進んだんです。もし私が専門学校にでも行っていたら、それこそ情 けない恥ずかしい、って非難しまくるはずでしょう? それが妹には“あのとき高校をや めずにちゃんと上の学校にまで行って、すごいわね。見なおしたわ”なんて言ってるんで す。 それだけならまだしも、私にも“ねえ、がんばったわよね?”っていっしょにほめるよ う、促すようなことまで言うんですよ。どうしてほめてもらえない私が、妹が専門学校に 行ったくらいで、ほめなければならないんでしょう」 リョウコさんはしばらく、激しい不眠に襲われた。母からの言葉がつぎつぎと頭に浮か び、「ああ言い返せばよかった」「こう答えるべきだった」と考えていると何時間も眠れ ないまま、時間がたってしまうと言うのだ。 リョウコさんに、「ご主人はどうなんですか。その気持ちをわかってくれるんですか」 と尋ねてみた。すると、苦笑いをしながらリョウコさんはこう言った。 「夫は“キミのお母さん、信じられないよな”って。夫の母は、もう“子ども命”みたい な人で、夫にもその姉や妹にもベタベタなんです。私の前で“あなたはあんなにやさしい 息子と結婚できて幸せね”なんて言っちゃうくらいで。だから、母親に愛されない子ども なんて、夫からは想像もできないんです」 そこで私は、「リョウコさんのお母さんも、実は本人がいないところでは娘自慢をして いるのではないでしょうか」ときいてみた。期待の娘だからこそ厳しくし、陰では実はそ んな娘を誇りに思っている。そんな可能性も高いからだ。 「たしかに母は見栄っ張りだから、他人には私が発表会でこうだったとかこんな大学に行 った、こんな学歴の男と結婚した、と自慢しているかもしれませんね。でも、それは私が 自慢というよりは、私を使って自分が見栄を張りたいだけなんです。私は利用されている だけ、というか……」 夫の母親は、愛情から息子自慢をする。ところが自分の母親は、あくまで自分の見栄の ために娘自慢をする。 これがリョウコさんの主張だが、両者のあいだに線を引くことなどできるのだろうか。 同じ子ども自慢でも向こうとこちらは違う、というのは、リョウコさんの一方的な決めつ けなのではないだろうか。 どうやらこのあたりに問題の核心がありそうだ。



