第4回 時間の壁



昨年、或るお祭りに出かけたときのこと。
数人の男の子たちが浴衣姿の女の子のグループに声をかけるところを目撃した。

男子たち「ちゅーさん?」
女子たち「こーいち」

その返事をきいた瞬間、彼らはくるっと向きを変えて去っていった。
びっくりした。
ナンパでしょ?
ナンパだよね。
それなのに、相手が一歳年上だっただけであんなにきっぱりと諦めちゃうんだ。
まるで、一学年違うと動物として交尾が不可能であるかのような撤退ぶりだった。
五十歳の私からみると、中三も高一も同じようなもの。
でも、中学生男子にとっての高校生女子はあんなに遠い存在なんだなあ、と改めて認識する。
一年という時間の壁。そのビビッドさに感銘を受けた。

そういえば私も、昔のことを思い出した。
小学校三年生のとき、休み時間のたびにドッジボールをしていた。
毎日毎日飽きもせず、他のクラスと対抗でやるのだ。
ところが或る日、たまたま相手がみつからなかったことがあった。
一組も三組も四組も駄目だってよ、やべーじゃん、やべーよ、どうしよう、と皆で相談。
そのとき、不意にK君が云い出した。

K「四年の女子とやろう」
皆「ええっ」

奇妙な興奮に包まれた。
ざわざわざわ。
よし、やろう。
今はどうかわからないが、当時は同学年の男女でも女子の方が体が大きいのが普通だった。
それが一年上となると、明らかな違いがある。
でも、我々は挑んだ。
四年といっても女子は女子、そのフォームは所詮くにっとした女子投げだ。
しかし、実際にボールを腹でうけると、ずんという重い衝撃があった。
げぼっとなる。
K君は突き指をした。
我々は思わず顔を見合わせた。
やべーじゃん。
やべーよ。
こいつらのパワーは一組や三組や四組の奴らとは比較にならない。
懸命に力を振り絞りながらも、とんでもないものと戦っている感触があった。
スカートを穿いた怪物だ。

休み時間が終わったとき、我々はぼろぼろだった。
しかし、負けはしなかった。

四年女子「またやろうね」
三年男子「お、おう」

皆の顔が輝いていた。
一年という時間の壁が、それに挑む者たちに与えた謎のときめきだ。
けれど、時間が経つにつれて、そのような壁は徐々に崩れていった。
大学入学がその最初のきっかけだったと思う。
同じクラスに当然ながら浪人と現役が混ざっている。
年齢差をいちいち気にしていたら、友達付き合いはできない。
なかには四浪という奴がいて、私も平気でタメ口を叩いていたけど、考えればこちらが小学生のときむこうは高校生だったのだ。

現在の私は前後十歳差くらいまでの相手とは対等に喋っている。
年齢の壁が消えて、すーすー見晴らしが良くなってしまった。
五十歳の自分が五十一歳の女性のチームとドッジボールをするところを想像してみる。
うーん。
興奮できないなあ。

©2012 daiwashobo. all rights reserved.