HOME > Web限定連載 > 優柔不断なコメンテーター<香山リカ>

Web限定連載

優柔不断なコメンテーター<香山リカ>
イラスト:©益田ミリ

第81回 太陽と月――「太陽」なのは母か娘か?

 目立たない仕事人間の娘の母親に会ってみたら、びっくりするほどおしゃれで華やかな
マダムだった……。診察室でこんな経験をしたことは、1度や2度ではない。
 若い娘のほうが派手で、母親が化粧っ気もなく地味というならまだわかるが、むしろ目
につくのはその逆のパターンだ。

 そういったマダム風の母親と話をすると、たいていは娘の地味さ、まじめさを「心配し
ている」と言う。
「ねえ、まだ若いんですから、もう少し着飾って楽しくしてもいいと思うんですよ。でも、
いくら言ってもダメなんです。かわいそうです、なんだか」

 そう言って心配そうにしながらも、母親の表情にはどこかゆとりがある。おそらく母親
は「太陽と月」の太陽の面を全部、引きうけており、娘はその光を受けてしか輝くことの
できない月のような役割を自然と担わされてしまっているのだろう。逆に言えば、娘が月
であり続けるからこそ、母親はますます輝く太陽でいることができるのだ。
 もし、娘も太陽のように輝き出せば、娘のような若さのない母親はひとたまりもない。
これまで母親を「すてきねえ」とほめてくれたまわりの人たちは、今度は娘をほめ始める
ようになるかもしれない。「若いころのお母さん、そっくり」といったほめ言葉も、母親
にとっては「いまの私は容色も衰えて見る影もない、ということか」と自分を非難されて
いるように感じるだろう。

 もちろん、母親自身には、「自分が太陽、娘は月」といった自覚はない。ただ、無意識
の中には、自分がいつまでも周囲から評価される存在であるためには、娘には華やかに輝
いてもらっては困る、という思いがあり、それが知らないうちに娘に対して「あなたには
こっちのほうが似合うわよ」「ちょっと派手過ぎるわね」とより地味な服装を勧める、と
いった行動に結びついていることもある。

 また、娘のほうも母親からの無意識の欲求を敏感に察知して、知らないうちに“母親の
引きたて役”のような役割を引き受けてしまうことが多い。それを、服装やメイクだけで
はなく、「どうしても体調が悪い」「すぐにうつ状態になる」といった心身の不調で表現
する人もいる。
 彼女たちは、母親に「困ったわねえ、また朝、起きられないの?」と心配や迷惑をかけ
ているようでいて、実は「やっぱりママのほうが若くて元気」というポジションをキープ
させ続ける役割を演じているのだ。もし、娘が心身の健康を回復して、どんどん仕事をし
たり家事、育児をこなし出したりしたら、今度は母親が「家のしっかり者」といった地位
を失うことになってしまう。母親としては、無意識的にそれだけは何としても避けたい、
と思うことだろう。

 そうやって、知らずしらずのうちに「太陽と月」の月になっている娘たちは、どうやっ
て自らの輝きを取り戻すべきなのか。次回は対策篇ということにしたい。

今週の香山リカ

● 平成22年12月2日 ●
機械に押しつぶされる悪夢を見て、
「これはフロイト的に解釈すると…」
と思いながら目を開けると、布団の
上にネコが2匹乗ってました。フロ
イト先生にきくまでもなかったよう
です。
連載エッセイのご意見メールをお待ちしております。
ヤングアダルト出版会