「男の子の育て方」を真剣に考えてたら夫とのセックスが週3回になりました 田房永子

「目の前にいる、生まれたばかりの赤ちゃんである我が息子。この子が、男であることがなんか、嫌」
ある日、自分のそんな奇怪な感情に気づいた、漫画家・田房永子。上の娘が赤ちゃんの時にはこんなこと思わなかったのに。
思えば中学、高校と6年間女子校に通い、生身の男子との交流に飢えながら、少女漫画でファンタジックな男性観を培い、しかし実際に出会い接触するのは「痴漢」という性的な恐怖を与えてくる男たちのみだった──。
もしかして自分は、強烈な男性嫌悪者かもしれない。このまま、男の子を育てるなんてしてはいけない。己の歪んだ男性観の矯正に挑む、ド直球日常報告エッセイ!

13 親は自分の問題を子どもに肩代わりさせることができる

ぬっちゃんとは、きっちり5歳差で生まれてくる二人目。年の差があるきょうだいだと、遊び方が違うので一緒に遊べない、という話を聞いた。どこかに連れて行っても、上の子に合わせた場所になるか、下の子に合わせた赤ちゃんぽいところになる、という。

それに「5歳も差があると一人っ子が二人いるようなものだよ」というのも何度か言われた。

そんな感じで妊婦だといろいろな声かけをもらう。大きいお腹でぬっちゃんの保育園にお迎えに行くと、同じクラスのママが「あ~、もうすぐなんだね~」と話しかけてくれるのだが、そのあと続けて「苦しいよね」と苦笑いしたり「もう出したいでしょ?」と言ってくる。一瞬ぎょっとはするものの、「そうそう! そうなの!」って感じでうれしい。

「もう産んでスッキリしたいよ」「まあ、まだ出てきちゃっても困るけどね」「アハハ、だよね」と話して別れるのだった。

一人目の妊娠の時は、「もう出しちゃいたいでしょ?」なんて言ってくる人、一人もいなかった。「陣痛、痛いよ~」はたくさん言われたのに、二人目だとそんなこと言ってくる人は誰もいない。

この頃、ぬっちゃんのイケてる写真が撮れたことがあった。その写真を誰かに見せたくて、半年以上ぶりに実母へメールで送ることにした。私の中で、「親」とはいろいろあったが、「子どもの写真を喜んで見てくれる人」というポジションで確定しつつあった。二人目があと3ヶ月くらいで生まれる予定であることは未だ黙っていた。

ぬっちゃんの写真を送信したその数分後から、何も着信とかないのにスマホがブーブーブー、、、、ブブーーっ!、、、、、、、、、、、ブー!ブー!って原因不明のバイブを発しまくり、うるさいから電源を消すんだけど2分後くらいに勝手に起動して電源がつくという怪奇現象が起こった。それが夜中まで続いたので怖ろしくて気が狂いそうだった。スマホをいろいろいじってたら直ったけど、「やっぱアイツにメールなんか送ったからだ……」としか思えず、そういう時にそう思ってしまう、そういう親子関係を築いてきた、その事実を改めて実感した。

さらにこの時期、ぬっちゃんと2人で出かけるのがすごく楽しかった。ぬっちゃんが喜ぶものに沿ってプランを組んでその通りに行動すれば、ぬっちゃんが「きゃー!」とか「こういうところ来たかったんだよー!」とかめちゃめちゃリアクションしてくれる。

途中途中、「寒くない?」「トイレ平気?」「お腹すいた?」といちいち聞いたりする自分が、マメなデートで彼女をもてなす男子大学生みたいに思えた。とにかく楽しい。

このことを“息子が岡本太郎好きなXさん”に話したら、「それ、愛人にプレゼントあげるおじさんと同じ心理状態だよ」と言われた。えっ……。「相手の反応がいいから、アドレナリンがドバドバ出るんだよ。中毒状態だよ」

確かにそれだな、と思い、恥ずかしくなった。

それでもやっぱり、下の子が生まれたら、こんなにぬっちゃんと楽しめなくなりそう、というのがあって「とにかく今、ぬっちゃんと2人きりの時間を存分に楽しもう」と意欲的だった。

特にぬっちゃんとフリーマーケットに行くのが異常に楽しかった。ぬっちゃんが「これがほしい」というものが、サテンでできたベンチ型の置物とか、私の目には全く入ってこないものをどこから見つけたんだ? って感じで取り出すのが面白い。

家のソファもこういうのがいいんだよ

フリーマーケットはジャンルというか全てのモノがごった煮なので、そこから「自分の子どもが選ぶもの」が見えるのが楽しい。フリマまでの道を歩きながら「ぬっちゃんが欲しいものあるかな?」って言ったら、「かわいいものがすきなんだよ。だからそれをさがす。きれいなものもさがすんだよ」と言っていた。

「ぬっちゃんは、うつくしいものもすきだよね」

「そうだよ。だからかわいいものときれいなものとうつくしいものをかうよ」

と言ってた。

現地に着くと、きったねえ中古のリカちゃん人形を買うって離さなくて、さすがにちょっとこれは買いたくないなって思ったので、別のものを見に行こうと誘導した。ジュエルペットという、昭和生まれにとっては「サンリオっぽくない」と感じるキラキラした絵柄のキャラクターがいてそのぬいぐるみを買ってと言われ100円で購入した。「かっちゃったよ~! ほしかったんだよ~!」とギューと抱きしめていた。

フリマを回っていると、ぬっちゃんが「ママも買いなさい!!」と言い出し、「どれがいいの?!えらんであげる!」と、おばさんっぽいアクセサリーを売ってるところを指定された。なんか嬉しくてニヤニヤしながら、記念によく分からないトンボ玉みたいのが付いた指輪を500円で買った。

指輪

この少し前、ぬっちゃんは保育園で2回もお漏らしして、家でもお漏らしをした。それまで、保育園でお漏らしなんてしたことがなかった。

「どうしてトイレ、間に合わないの?」と本人に聞いたら「……わかんないんだよね」ってテへって感じで言ってた。

その3日後に、6日くらいぶりに夫との喧嘩が終焉した。家庭内の雰囲気が元に戻った時、やっと気づいた。私や夫が焦ってたり、不安だったり、カリカリしてたり、家庭が不穏だったり、不安定だとぬっちゃんのお漏らしが激増するってことに……。

「どうして間に合わないの?」じゃねえよ、お前の影響だよ。

3日前の自分に言った。

ぬっちゃんの前で怒鳴り合ったりしてないし、あまり会話を交わさないだけで、他は普段通りだし、ぬっちゃんも普通にしてるから、私たちが喧嘩してることにも気づいてないんじゃないかって思ってた。

でも、保育園でお漏らししたって先生に言われた時、「えっ」て思って、あ、なんか今うちが不穏だから……? って、私、絶対、思ってた。だけどそれをナシにして、わざわざぬっちゃんに「どうして?」と口に出して聞くことで、「私のせいじゃない、この子の問題」って感じの確認っていうか、念押し、してたと思う。

そういうのって、リアルタイムでは自分の精神も必死だから「私のせいなんだ」ってハッキリ思えない。自分が夫と仲直りして、心が落ち着いて、満たされてからやっと、「そういえば……」って思えるし、認められる。

そのタイムラグの間、問題をぬっちゃんに仮に肩代わりしてもらっていた。そういうことが「親」という立場の人にはできてしまう。子どもは親と家が自分の人生と生命の全てだから、そこに少しでも亀裂が入ると、速攻で心身に影響がバーーっと出るんだと思う。

ぬっちゃんが寝たあと、夫にそのことを言ったら、夫も「絶対そうだと思う」と答えた。二人で反省したけど、親は「反省」してりゃあいいっていうか、それで免罪みたいなところあるから、直で被害が出る子どもに比べてラクすぎるだろって思った。そもそも不穏の原因である喧嘩自体、私たち夫婦の未熟さの結晶っていうかしょうもないマウントの取り合いとか威嚇とかそんなんだし……。

それでも、これからも二人でぬっちゃんを育てていかなきゃいけないから、「反省」して、改善するように努力してカウンセリングとかセラピーとか行ったりして、でもまたきっと同じような別のことを繰り返してしまいながら、それでもまた反省して、自分で自分を許して、暮らしていかなきゃいけない。

ぬっちゃんを抱っこして、「大きい赤ちゃんですね~バブバブー」ってあやす赤ちゃんごっこをよくする。ぬっちゃんが「やろう」っていう時もあるし、私からやる時もある。その日やってたら、「ぬっちゃんが赤ちゃんになっちゃったら、おなかの本当の赤ちゃんが、かなしがむ(悲しがる)んじゃない?」と言ってきた。

ぬっちゃん……なんてすてきな気遣いだろう、と感動しテンションが上がってしまった。「ママが、おなかの赤ちゃんにも言うから大丈夫だよ!」と言って、自分の腹に向かって「赤ちゃん~~~あかちゃ~~~ん! バブバブ~~~~う!!」ってちょっと、自分酔い気味にアゲアゲのノリノリで言ってしまった。口に出したらもっと気持ちよくなっちゃって、さらに「バブウうううう~~~~!!!あかちゅあ~~~ん!!」ってくしゃくしゃにした顔を上下左右に激しく揺らして腹に話しかけてたら、ぬっちゃんが引いた感じなったのでそのまま赤ちゃんごっこは終了した。

実母から、ぬっちゃんの写真について「美しいですね」と返信が来た。調子に乗って「美しいんですよ」と新たに4枚くらい写真を送ったら、またスマホがブーブーブーブー鳴って止まらない&電源消しても勝手に点く病になって、やっぱ確実にアイツにメールしたことが原因だと確定した。偉大なる力からの警告がきている。

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